農村の生活基盤を脅かす獣害

現在、多くの農山村は「獣害」という深刻な課題を抱えています。イノシシ、シカ、サルなど中・大型哺乳類による農作物被害や年間約200億円。地域の農林業に与える経済的な影響はもとより、集落内に野生動物が出没することで受ける日常生活への影響や、日々丹精込めて栽培している自家用菜園に対する食害など、簡単に金額で表すことのできない切実な「被害」があります。

とくに農村生活において、自給自足は醍醐味です。たとえ販売目的ではなくても、昔から農村のそれぞれの家庭で日々の食卓を潤してきたものであり、生活の一部であり、また地域の高齢者の「楽しみ」「生きがい」を育む場です。獣害によって繰り返し荒らされることにより、自分の畑で収穫するというささやかな喜びが失われている状況が生じ、これまで耕し続けた畑を手放す農家が増えています。現場では「こんなところに住みたくない」という悲しい言葉を耳にすることもあるなど、獣害は営農意欲の低下はおろか、農村の生活基盤そのものを脅かす問題といっても過言ではありません。

地域が主体となって被害を防ぐ

獣害を防ぐ手立てがないわけではありません。むしろ、獣害対策の研究は進み、方法論はかなり整理されてきたといえます。実際、地域が主体となって被害を効果的に防ぐ成功例は各地で報告されるようになっています。しかし、こうしたノウハウを知っている専門家はまだ多くありません。さらに、地域全体として広げていくためには、さらに大きな課題があります。

日本では世界に先だって人口減少の局面を迎えていますが、農村ではさらに著しく高齢化が進行していて、多くの地域では、対策を行う労力や意欲が減退しています。集落での懸命な取り組みの成果によって、今は何とか獣害に対応できている集落も、この後いつまで対策を継続できるのか先行きに不安を抱えている地域も少なくありません。

行政機関は専門的な人材が不足している

住民の取り組みを公的に支援する立場である行政機関には専門的な人材が不足していることも慢性的な課題です。今後さらに進行する人口減少社会においては、今よりも行政サービスの効率化が図られる中で、人と野生動物の軋轢を軽減し、野生動物管理体制を確立するための専門的な人材や体制をどのように整備・創出していくかは非常に大きな課題となっています。

獣害の深刻化は生産意欲の減退を招き、耕作放棄地の増加を生んでいきます。そして、そこが新たな野生動物の棲家となって、獣害が深刻化し、さらに離農が進んでいく・・・獣害と地域の衰退の負のスパイラルは今後ますます拡大していくでしょう。

守り伝えたい暮らしがある

獣害が深刻化する一方で、人口減少・高齢化も進行していく日本の農村。
今、最前線で獣害に立ち向かっている地域をみんなで支えなければ、野生動物問題はさらに都市部にまで拡大することが予想されます。なにより農村には将来に継承したい豊かな「里のめぐみ」や自然と調和した人の暮らしがあります。

そこでさともんでは、行政や関係団体と連携して、限られた力で懸命に取り組む地域の獣害対策を支援するとともに、後世に伝えたい里地里山の豊かさを可視化し、共感してくれるさまざまな人で共に守り、わかちあい、継承するネットワークづくりを行うことで、地域と支援者をGift-Giftの関係で結んでいきます。

獣害対策をきっかけに、今までなかった新たな交流を生み出し、守り伝えたい地域の魅力をみんなで共有・発信していくことで、獣害を解決しながら地域の活性化までを支援していきます。

「獣害」から「獣がい」へ

地域に与える負の影響から「獣害」と表記されることが一般的ですが、本来、野生動物は豊かな里地里山の構成員であり地域の魅力の一つです。

私たちは「獣害」を「獣がい」という言葉に変えたいと思っています。

確実な手法で「害」を軽減するだけでなく、獣の存在はそのままに、多様な人材の参画により、新たな交流や共感を生む前向きな「獣がい対策」を推進し、地域を元気にすることを目指します。

丹波篠山から全国へモデル発信

まずは篠山市を拠点に、獣がい対策と地域再生を中間的に支援するソーシャル・ビジネスのモデル(「ささやまモデル」)を確立し、同様の課題を抱える多くの地域にも広げていくことで、獣害の前向きな解決を図っていきたいと考えています。

このことは、 野生動物を含む多様な自然と持続的に共生できる地域社会の創生にもつながり、全国の農村に還元できるモデルとなります。

地域の「魅力」や「想い」に共感し、支援してくださる方が1人でも増えることが、地域に新た な「交流」や「楽しみ」を生むことになり、獣がい対策に取り組む意欲を後押しすることにつながると考えています。都市部に住みながらも、「楽しく」「美味しく」農村の魅力を満喫し、地域の「獣がい」対策に貢献していただくことができます。