Chapter 02 サル対策の基本

ニホンザルによる農作物被害は、北海道・茨城県・長崎県・沖縄県を除く都府県で発生しています(平成29年度)。果樹や野菜などの販売用作物に対する経済的な被害の一方で、自家用あるいは近親者への贈答用に生産される農作物への被害のほか、家屋への侵入や破損、人への威嚇など、生活被害や精神的被害も発生させており、必ずしも金銭的な問題だけでは片づけられない問題となっています。

田畑へ侵入し、農作物を荒らすサルの群れ
加害レベルが高くなってくると、出没頭数も増え被害が深刻化していきます。


サル管理と対策の考え方

ニホンザルは群れをつくり、一定の行動域の中で食物を求めて移動しながら生活しています。この行動域内に自分の集落や農地が含まれるようになると、その群れによる被害が発生します。一般に、被害発生の初期では被害にあう作物や量は少ない場合が多く、群れが人や集落環境に馴化し依存を高めていくと、次第に農地での滞在時間が増すため、他の農作物を採食する機会も増え、被害品目が増加していきます。また、人や農地環境への馴化が群れ全体に広がると、多くの個体が農地で採食するようになり、被害程度は一気に増大します。このように群れによって「加害レベル」が異なるほか、10頭くらいの小集団から100頭を超えるような大集団も存在するなど「群れサイズ」も異なります。無計画に捕獲だけをしていても、捕獲から免れたサルたちは引き続き群れを維持して行動するため、その行動域内の被害は軽減しません。群れの分布・頭数等の現況把握のもとに、対象となる群れを特定して、計画的な「個体数管理」を実施していくことのほか、対象群の加害レベルを軽減させる「被害対策」が必要となります。

人馴れが進行すると人に威嚇したり、倉庫や民家に侵入するなど、生活被害や精神被害も発生します。

「食べさせない」対策

サルの被害対策で重要なのは、「ここにきても餌が食べられない」という学習をさせることです。農作物は野生動物にとって、どんな森林内に存在する餌よりも比較にならないほど高栄養で可食部が多い魅力的な餌です。こうした高品質な餌が無防備な状態で多くある集落は、群れの出没頻度や滞在時間が多い傾向があります。そこで、しっかりと防護柵を設置し、サルが集落に訪問する第一目的となっている農作物を食べさせないことが必要です。たとえば「おじろ用心棒」と呼ばれる通電式支柱を使ったワイヤーメッシュと電気柵の複合柵はサル対策に抜群の効果を発揮する技術として知られています。

『サルに効果抜群のおじろ用心棒』 通電式支柱で、支柱をよじ登ることも抑制できるようになるので、サルが柵を越えようとした際に、高確率で電気ショックを受ける構造となっています。ただし、効果を維持するためには正しい設置方法やメンテナンスが必要です。

 

「防護柵の設置率が高まった集落への出没率の変化」 S集落では被害にあう農地の約70%に、K集落では約53%に効果的な防護柵が設置された結果、2集落とも集落への出没率が減少した。

集落ぐるみで取り組む

農地に適切な防護柵を設置することは、かけがえのない農作物を守ることに加え、集落ぐるみで取り組めば、サルにとって利用可能な餌が減少することになるので、集落への訪問回数や滞在時間を減少させることにもつながります。そのほか、放任果樹やくず野菜など野生動物を誘引している「被害と感じない」餌も管理していくことが必要です。こうした餌を減らしながら取り組みたいのが追い払いです。ただし、個人でバラバラに行う追い払いは効果がありません。追い払いについても「集落内で一切食べさせない」ことを目指して、集落で役割分担をして組織的に行うことが重要です。

集落で行う追い払い研修会の様子。受信機とアンテナを活用して群れに位置を把握できれば効率的な追い払いが可能になります。
 

おわりに

被害現場に行くと「サルは頭が良い」「何をやってもだめ」という声をよく耳にしますが、決してそんなことはありません。サルに有効な防護柵や集落全体で実施すべき方法論は確立されています。対象となる群れに発信器を装着することで、行動域や頭数を把握したり、位置情報を共有することが可能となり、捕獲や対策がずいぶん効率的になります。ICTを活用した群れの位置情報共有システム「サルイチ」の活用など先進地の事例にならい、農家や地域住民への周知を行い、対策を取りやすいように自治体(市町村)が支援体制を整えていくことが重要です。


ICTを活用した群れの位置情報共有システム「サルイチ」
対象となる群れが毎日どこにいるか位置情報が分かれば、サル対策が効率化される。

サルイチの詳しい説明はこちらから